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2019.12.12 特別寄稿

これから日本は韓国とどう向き合うべきか vol.1
元統合幕僚長 岩崎茂氏インタビュー

実業之日本フォーラム編集部

◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 Vol.8−「反日」が激化する 韓国の「いま」と「今後」 4つのシナリオ』(9月26日発売)の特集「自衛隊・元統合幕僚長 岩崎茂氏インタビュー」の一部である。全5回に分けて配信する。



自衛隊機へのレーダー照射問題、元徴用工問題、韓国に対する輸出管理など、日韓関係を冷やす出来事が立て続けに起こり、国交正常化以来、両国の関係は最悪の状態だ。一方、急速に台頭してきた中国、核開発を進める北朝鮮と東アジア情勢は不安定さを増している。日本は国益を考えると、韓国とどう向き合うべきなのか。かつて自衛隊制服組のトップを務めた岩崎茂氏に聞いた。


韓国軍によるレーダー照射の不可解


2018年12月20日に韓国海軍による海上自衛隊のP-1哨戒機に対するレーダー照射問題が起こり、その前から我が国と韓国との間で問題になっていた徴用工問題もあって日韓関係が極端に悪化した。

しかし、これまでは政治的に両国間が険悪なムードになっても自衛隊と韓国軍は政治にそれほど影響されることなく適度な関係を保つことができていた。当然のことながら我が国も韓国も民主主義を基本とする国家なので、シビリアンコントロールの下で自衛隊も韓国軍も行動する。そのため、両国の政治関係が悪化すれば韓国軍と自衛隊の交流も基本的には停滞することになる。とはいえ、政治的に問題があっても自衛隊と韓国軍の関係がここまで悪くなることはなかった。

レーダー照射事件が起こったあと、日本政府と韓国政府、そして防衛省と韓国国防省は数度の会議を行ったものの、両国の主張がかなり食い違っており修復されることはなかった。そのようななか、2019年2月になり、韓国側から「日韓安全保障戦略対話」の提案があった。

これは両国の国会議員を含む安全保障に関連する、いわゆるトラック1.5の会議である。この会議はこれまで数度行っており、会議の参加者は若干の変更はあるものの、主要な参加者は固定されたメンバーで構成されている。これまでは和やかな雰囲気で会議が行われ、建設的な意見が多くあったと記憶している。

最近の会議は2018年7月にソウルで行われ、主に北朝鮮対応が主要議題であった。今回は韓国側から急遽、会議開催の要望があり、日本側はこの会議により、「何らかの解決の糸口」が見つかるかもしれないと考えていた。韓国側の日本への入国は会議前日の夕刻だったので、韓国側が都内へ到着した直後の夕食会から会合は始められた。 夕食会では、昨年7月の会議以来で、ここ数カ月の日韓のぎくしゃくした関係もあり、当初こそ硬さがあったものの、会が進むにつれ、なかには「そろそろ両国は本音で話し合うべき」との発言もあり、少しずつ和やかな雰囲気となっていった。

しかし、翌日の会議における韓国側の主張は、青瓦台のとおりであり、韓国国防部の説明を超えるものではなかった。諸般の事情から日本側の参加者は大きな期待こそしていなかったものの、大変残念なことであった。であれば、「今回の韓国側の急な会議要請は何だったんだろう」と日本側のほとんどの参加者が思っていた。

今回の韓国海軍の駆逐艦によるレーダー照射、ロックオン事案は海上自衛隊が提示している証拠からほぼ間違いない事実であろう。これは極めて危険な行為である。通常、レーダーには捜索モードとロックオンモードがある。捜索モードとはレーダーアンテナが航空機やミサイル等の飛翔体を探すモードであり、飛翔体側からすれば、相手方の電波が一定の時間間隔で相手の電波を浴びる状態である。

ロックオンモードとは、電波がある一定の方向に連続して投射されている状態のことをいう。電波を受けている側からすれば、電波を常続的に浴びている状態である。通常、ロックオンすることにより、当該アンテナから相手までの距離を測定でき、ロックオンした側はロックオンした対象物が、こちらが保有するミサイル等の有効射程内か否かを知ることができるのである。

このようなことからロックオンする行為は、射撃行為であると判断される可能性のある危険な行為といえる。ロックオンされた側は、警告音等で知ることができる。この警告音が鳴り響けば、いつミサイルが飛んでくるかわからない状態であり、戦闘状態といっても過言ではない。

通常、レーダー操作を担当する隊員はこのような危険性を繰り返し厳しく教えられている。それゆえ、操作員が勝手にこのような危険行為を行うはずがない。

私は戦闘機のパイロットとして冷戦期後半からソ連崩壊後まで、3ケタに近い回数のスクランブル(対領空侵犯措置)を経験している。対象機の多くはソ連機であったが、当然のことながら決して対象機をロックオンすることはなかった。

多くの方々はときどき、あまり意識しないで携帯やスマホを触っていて、いつの間にか電話をしてしまった経験があるのではないだろうか。ロックオンの操作は、スマホの誤操作とは違って簡単にはできず、ある異なる操作を複数回行って初めて可能になる。無意識のうちに触ってロックオンすることはない。ロックオンは何らかの意図を持って行うものである。何らかの意図を持つには、一人のレーダー操作員の一存ではありえない。つまり、組織的な判断の下で行われた行為ではないかと考えるほうが自然である。

では、なぜ韓国海軍はロックオンをしたのか。ここからは推測の域を出ないが、現在の日韓関係、東アジア情勢を考えれば、韓国海軍が自衛隊のP-1に対し何らかの攻撃を行うとは考えられない。

しかし、ロックオンをしたことは事実であり、もしかすれば韓国軍が他国に見られたくない行為、隠すべき何かがあったのではないか。そのための警告のロックオンだったのではないかと考えている人たちもいる。シビリアンコントロール下にある韓国海軍が危険極まりないロックオン操作をなぜ日本の自衛隊機にするのかとの疑問が湧く。

このような極めて危険な行為を韓国海軍が独断で行うとは考えにくい。いずれにしてもこのことは韓国側が本当のことを語らないかぎり真相はわからない。


(つづく~「自衛隊・元統合幕僚長 岩崎茂氏インタビュー これから日本は韓国とどう向き合うべきか vol.2【フィスコ 株・企業報】」~)

実業之日本フォーラム編集部

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