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2019.04.17 特別寄稿

GDPRの理解とその影響 vol.1
サイバーセキュリティ専門家 足立照嘉氏

足立 照嘉

◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 Vol.7 −米中冷戦の行方と日本の未来』(3月29日発売)の特集「GDPRの理解とその影響」の一部である。全2回に分けて配信する。



2018年5月25日、EUは2016年に制定したプライバシー保護の法律「GDPR(一般データ保護規則)」を、2年間の周知期間を経て施行した。GDPRの登場は何を意味し、企業にどのような影響を及ぼすのだろうか。サイバーセキュリティ専門家の足立照嘉氏が解説する。


テクノロジーの進歩をパイにたとえる


パイ(食べ物)を思い浮かべてもらいたい。テクノロジーの進歩は、パイに新しい層を積み重ねてきたようなものだ。そして、いつの時代も新しく積み重ねられた層のなかで、より多くの取り分を得るために競って境界線を引いている。まさしく「パイの奪い合い」というわけだ。

ここで今イメージしているパイから、その層を一枚ずつ剥がしていってもらいたい。

最も一番下の層には世界地図が描かれている。物理的に存在する山や海に線が引かれ、国境が描き出されている。その上には、円やドルやユーロなどの勢力図を表した通貨の層もあれば、エネルギーの奪い合いによって描かれた層だってある。パイを構成しているそれぞれの層には、あらゆる世界に描き出された境界線が記されている。

そして、ここに描き出された境界線の位置は、永遠に変わらないわけではない。政治や経済などあらゆる要因が密接に関わることで動的に変化しているのだ。

一枚一枚の層は、それぞれが独立した世界を描き出しているが、層と層とは相互に相関しており、積み上がった層の上にしか新しい層は現れない。

そして、このパイそのものが、現実世界を描き出したものだ。


ITの層 ~テクノロジーの創出とともに積み重なる~


それでは、ITに関連しているあたりの層を剥がして見てみることにしよう。

そこには半導体の勢力図を描き出した層がある。描き出された境界線は、インテルとフェアチャイルドが線を引き合っていた時代があり、インテルと AMDが線を引き合っていた時代もあり、今ならインテルとARMとで線を引き合っているのかもしれない。この境界線はいつの時代も変化している。

半導体の層の上にはコンピュータの層があり、IBMとApple Computer(現、Apple)とが境界線を引き合っていた時代もあれば、日本ではIBMとNECが境界線を引き合っていたし、今ならサムスンとAppleが境界線を引き合っている層もあるだろう。

その上にはソフトウェアの層があり、インターネットの層があり、クラウドの層があり…。新たなテクノロジーが生まれるたびに、新しい層が積み重ねられてきた。

そして、下に積み重なっている層が存在しなければ、その上に新しい層が積み重なることは無い。


データが価値を持つ ~GAFAとBAT~


ソフトウェアの層では、1990年代になるとMicrosoftの引いた境界線があまりにも巨大な領土となり、独占禁止法に反するという声が各地であがり始めた。そして、同社は莫大な制裁金を課されるに至る。

国境や政治、経済などが描かれた層で圧倒的な領土を持つものは覇権国家と呼ばれ、いつの時代も羨望と批判の対象となってきた。このようなことはあらゆる層で生じており、ソフトウェアの層でも同じことが起こったわけだ。

そして現在、「データが価値を持つ」層での競争が熾烈になり、多くの人々がその動向に注目している。「データが価値を持つ」層において、「個人データ」は一際大きなイシューだ。

このデータが価値を持つ層で大きな存在感を示しているのが、GAFAと総称されるGoogle、Amazon、Facebook、Appleに代表される米国企業である。ここにMicrosoftを加える場合もあるし、中国経済圏ではBATと総称されるBaidu、Alibaba、Tencentが存在感を示している。


(つづく~「サイバーセキュリティ専門家 足立照嘉氏:GDPRの理解とその影響 vol.2【フィスコ 株・企業報】」~)


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足立 照嘉

サイバーセキュリティ専門家。
欧州を中心に北米や日本でもサイバーセキュリティ事業を展開。 日本を代表する企業の経営層からも信頼が厚い。