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2018.12.18 特別寄稿

成熟経済ではお金を使い楽しむべき
さわかみホールディングス代表 澤上篤人氏インタビューvol.5

澤上 篤人

◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 2018年冬号 −10年後の日本未来予想図』(10月5日発売)の特集「さわかみホールディングス代表取締役 澤上篤人氏インタビュー」の一部である。全5回に分けて配信する。



ある程度の短期スパンで結果を求めがちな我々の投資。しかし10年後、20年後それ以上を視野に入れた長期投資の世界もある。その長期投資とはどういうものなのか、また長期投資家に必要な考え方、情報収集方法などはあるのか。「さわかみファンド」でその名を轟かせる日本における長期投資家のパイオニア、澤上篤人氏に長期投資の魅力、そしてその真髄・極意を尋ねた。



―日本経済を活性化させる方法とは

日本経済の活性化について私の考えを伝えさせてください。アベノミクス、アベノミクスといっても、それほどパッとした成果は出ていません。その状況を瞬間的に変える方法があります。どうしたらいいと思いますか?

日本には、個人の預貯金が約870兆円あります。世界最大の眠れる資金ですよ。100万円をメガバンクの普通預金に1年間預けても税引き後の利子は10円にもなりません。ほとんど無意味ですよね。

そこで預貯金の1%を寄付に回すんです。するとどうなるのか。870兆円の1%の8.7兆円を寄付すると、GDPが約1.7%も成長するんですよ。

世の中には貧しい人がたくさんいます。音楽やスポーツをやっている人で大金をもらっている人はごく一部で、ほとんどの人が決して裕福ではありません。こういう人たちに寄付すれば、ごはんをおなか一杯食べたり、新しい楽譜やスパイクを買ったりすることができる。つまり、寄付したことで消費が生まれます。

日本が高度経済成長を謳歌していたときは、一生懸命稼いだお金で、みんながテレビや洗濯機、自動車などを買いまくっていたから経済が回っていた。しかし、成熟経済になって、老後の不安などからお金を使わずに抱え込むようになった。それでは経済が回らなくなるのも当然です。それは自分の首を真綿で絞めているようなものなのに、そのことにほとんどの人が気づいていません。

たしかにモノにはお金を使う必要はなくなりました。成熟経済では、文化、教育、技術、スポーツなどにもっとお金を使って、それを楽しむべきです。 私がさわかみオペラ芸術振興財団をつくったのは若い芸術家の活動を支援したり、教育支援をしたかったからですし、さわかみ財団を設立したのは、お金を公益性が高く社会的にも意義と価値のある、かっこいい使い方をすることで社会をより良くしたいから。最近は、お金をかっこよく使う大人らしい大人が少なくなってしまいました。

仮に870兆円の3%を寄付したら、GDPが5%以上成長する。経済全体のパイが大きくなれば、巡り巡って自分たちにも大きなリターンがあることは誰だってわかるでしょう。 私は71歳になりましたが、ますますもって意気軒昂。「生活者株主」という概念を広げるために講演するだけでなく、財団の活動にも力を入れていますから本当に忙しい(笑)

長期投資を行う国内の直販投信8社13本ありますが、すべての投資信託アセットの1%未満です。現在、さわかみファンドの純資産は約3200億円ですが、5兆円、10兆円になってもおかしくない。20兆円ぐらいになったらやめてもいいかなと思うけど、それまではやめられませんよ。

澤上 篤人

さわかみ投信 会長
1947年3月28日生まれ。愛知県出身。71年から74年までスイス・キャピタル・インターナショナルにてアナリスト兼ファンドアドバイザー、80年から96年までピクテ・ジャパン代表を務める。96年にさわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立し、99年には「さわかみファンド」を設定。日本における長期運用のパイオニアとして名を馳せる。現在もさわかみ投信会長として長期投資の啓蒙活動を行いながら「カッコ好いお金の使い方」のモデルとなるべく財団活動にも積極的に取り組んでいる。ブログ「澤上篤人の長期投資家日記」も日々更新中。