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2018.12.13 特別寄稿

投資は将来をつくっていくこと
さわかみホールディングス代表 澤上篤人氏インタビューvol.4

澤上 篤人

◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 2018年冬号 −10年後の日本未来予想図』(10月5日発売)の特集「さわかみホールディングス代表取締役 澤上篤人氏インタビュー」の一部である。全5回に分けて配信する。



ある程度の短期スパンで結果を求めがちな我々の投資。しかし10年後、20年後それ以上を視野に入れた長期投資の世界もある。その長期投資とはどういうものなのか、また長期投資家に必要な考え方、情報収集方法などはあるのか。「さわかみファンド」でその名を轟かせる日本における長期投資家のパイオニア、澤上篤人氏に長期投資の魅力、そしてその真髄・極意を尋ねた。


―投資するために企業の価値を測る材料として、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)のいわゆるESG投資という考え方が社会に浸透してきています。澤上さんはこの動きをどう見ていますか。

ひと言で言ってしまえば、「何を今さら言っているの?」というのが正直な感想。じつは1970年代半ばまでは、10年~20年のタームで投資する長期投資が主流でした。その最たるものが長い時間をかけてしっかりと財産を増やしていく年金でした。

ところが、1970年半ば以降から雲行きが変わってきた。年金制度が整備されている先進国の年金マネーが世界最大の運用マネーになったことで、運用会社が年金マネーに目を付けた。運用会社同士の競争が激しくなると、運用会社はより短期で目に見えるパフォーマンスを出す必要に迫られました。

そうこうしているうちに年金資金の運用は、どんどん短期投資になっていきました。90年代には、長期でリスクを取りにいく投資運用(インベストマネジメント)ではなく、ディーリングで値ザヤを稼ぐ資金運用(マネーマネジメント)に変わってしまった。短期的な成績が出ればなんでもいいという状態になっていったわけです。

日本の年金を見たってそうです。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、米系の運用会社などに任して、今年は何兆円増えた、減ったと大騒ぎしていますけど、基本的にはそのときが良ければいい。

しかし、長期投資をずっと続けてきた私からすれば、「投資は将来をつくっていくこと」にほかならないわけで、子や孫の世代にどんな社会になるかまで考えなければならない。だからこそ、大前提として、企業の社会正義、倫理観が私の価値観、生き様と合わなければ投資対象にはならないわけです。それをずっとやってきたので、「何を今さら」という感じに思っています。当たり前のことだろ、と。


(つづく~「さわかみホールディングス代表 澤上篤人氏インタビューvol.5 成熟経済ではお金を使い楽しむべき【フィスコ 株・企業報】」~)

澤上 篤人

さわかみ投信 会長
1947年3月28日生まれ。愛知県出身。71年から74年までスイス・キャピタル・インターナショナルにてアナリスト兼ファンドアドバイザー、80年から96年までピクテ・ジャパン代表を務める。96年にさわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立し、99年には「さわかみファンド」を設定。日本における長期運用のパイオニアとして名を馳せる。現在もさわかみ投信会長として長期投資の啓蒙活動を行いながら「カッコ好いお金の使い方」のモデルとなるべく財団活動にも積極的に取り組んでいる。ブログ「澤上篤人の長期投資家日記」も日々更新中。

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