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2018.05.29 特別寄稿

日本の仮想通貨制度の課題
一橋大学名誉教授 野口悠紀雄氏インタビューvol.2

野口 悠紀雄

◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 2018年春号 −仮想通貨とサイバーセキュリティ 』(4月28日発売)の巻頭特集「一橋大学名誉教授/早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口 悠紀雄氏インタビュー」の一部である。全5回に分けて配信する。



日本を代表する金融・経済学者であり、著名な知識人でもある野口悠紀雄氏は2014年に著した啓蒙書『仮想通貨革命』で、仮想通貨に潜む巨大な可能性を指摘した。以来、同氏の仮想通貨に込められた熱い思いと冷徹な分析は、日本の投資関係者に大きな影響を与え続けている。今回は、昨年来の仮想通貨を取り巻く世界の動きを振り返るとともに、これからの仮想通貨の課題や進むべき方向について同氏の率直な考えをうかがった。


―わが国では世界に先駆けて交換業者の登録制度を始めましたが、これからどのような舵取りをすることが日本経済にとって望ましいとお考えでしょうか。

日本は資金決済法の改正によって、取引所を登録制にしましたが、これは世界でもほかに例のない仕組みだと思います。その目的は、政府が登録を認めることによって、取引所の安全性等について、一般の消費者にある種の保証を与えるということですね。私はそのこと自体は正しいと思っています。問題は、いったいどのような規制を導入するかということです。

私は、現在の制度で一番大きな問題は、証拠金取引だと思っています。多くの取引所で証拠金取引が受け入れられていますね。これによって投機が促進された側面は否定できないと思っています。先ほど2017年において仮想通貨の価格が急上昇したと話しましたが、時を同じくして日本における取引所が非常に増加しています。価格上昇の問題と証拠金取引の存在との因果関係を正確に申し上げることは難しいのですが、無関係とは言えないと思います。

証拠金取引自体はほかの金融資産についても認められていますが、ビットコインの場合に特に問題となるのは、証拠金取引でビットコインを手に入れても、それを送金目的に使うことができない、ということです。先ほどから申し上げているように、ビットコインの本来の目的というのは、送金の手段として使用するということですから、そういう目的にはそぐわないような仕組みになっているのではないかと懸念しています。

したがって、もし現在の取引の規制に問題があるとすれば、私はまずそのことを取り上げるべきだと思います。


―今回の制度改正は日本政府としてもかなりの決断だったと思われますが、実際には様子を見ながら進めている側面もあるかと思います。サーキットブレーカー的なシステム(取引を緊急時に一時停止する制度)がないことが過度な投機を誘発したのかもしれませんが、いかがでしょうか?

サーキットブレーカーの仕組みも必要かもしれませんが、必要不可欠かというと私は疑問に思います。なぜなら、ビットコインは株式などと違って、取引所ですべての取引が行われているわけではないからです。仮にサーキットブレーカーを適用するにしても取引所での取引に適用することになると思われますので、急落や急上昇の事象を防げるかという点は疑問に思います。


(つづく~「一橋大学名誉教授 野口悠紀雄氏インタビューvol.3 仮想通貨をめぐる世界の動きから何を読み解くのか【フィスコ 株・企業報】」~)

野口 悠紀雄

一橋大学 名誉教授
1940年、東京に生まれ。 1963年、東京大学工学部卒業。1964年、大蔵省入省。1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2017年9月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授。著書に『情報の経済理論』(東洋経済新報社)『土地の経済学』、『バブルの経済学』(日本経済新聞社)、『ブロックチェーン革命』(日本経済新聞出版社)など多数。近著に、『平成はなぜ失敗したのか』(幻冬舎)、『「超」AI整理法』(KADOKAWA)、『経済データ分析講座』(ダイヤモンド社)、『「超」現役論』(NHK出版)、『だから古典は面白い』(幻冬舎新書)、『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社)などがある。

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