このところ、各国の軍隊では無人機(ドローン)の開発・導入が進んでいる。技術の進歩により、高機能の無人機が手軽に利用できるようになった。小型軽量の無人機でもカメラを搭載して、一人称目線で操縦できるようになっている。軍も無人機を活用することで、人的損害を回避することができる。供給者側の環境と需要者側の思惑が合致し、戦場における無人機活用が広がっている。
これまで無人機は、訓練用標的や偵察用に利用が拡大してきた。また無人掃海具(主として機雷を掃討するための装備)などの開発・運用も、こうした流れの中に位置付けられる。役割としては「裏方」的なものが中心だった。
ところが2019年9月、イラン政府の支援を受けたイエメンの反政府組織フーシ派が、自爆型軍用無人機18機と、巡航ミサイル4発でサウジアラビアの石油プラントを攻撃した。これによりサウジアラビアの原油輸出量が1日当たり570万バレル減少し、完全復旧までに3週間近くを要している。この減少幅は世界の石油生産の5%、日本の輸入量(1日約300万バレル)の2倍弱に相当する。無人機が世界経済を揺るがすまでの力を発揮した。
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻では、無人機は戦況の鍵を握る兵器となった。軍用無人機のみならず民生用無人機も膨大な機数が投入され、手榴弾や手製の簡易爆弾を戦車や塹壕に投下している。民生用無人機であれば、熟練した兵士でなくても操作が可能だ。
無人機は、軍事手段に情報戦など非軍事手段を組み合わせた「ハイブリッド戦」のツールとしても活躍している。カメラを搭載した無人機が撮影した敵戦車攻撃の様子はインターネットで公開されており、味方の戦意高揚・敵の戦意喪失を図っている。
無人機は町工場のようなところでも生産可能だ。実際、自動小銃「AK-47」で有名なロシアの大手軍需企業カラシニコフは、戦場からの需要に応えるためにショッピングセンターを改装した工場で無人機生産を始めた。ロシア全土での生産数は、月産10万機に達するとみられている。それでも前線からは「無人機をもっと送れ」と言ってくる。無人機は生産しやすく、同時に使いやすいことの表れだ。
日本も防衛用無人機に注力
自衛隊でも無人機の開発・運用は、訓練標的・偵察用・無人掃海具などで進められていた。海上自衛隊では1960年代からしばらく、米国の軍事援助計画(MAP)による無償供与を通じて、ヘリコプター型の対潜攻撃用無人機QH-50を運用していた。古くは旧海軍が、1942年に対空射撃標的用のリモコン式無人機(一式標的機)を正式採用した。ちなみにこれを製造したのは、スポーツ用品メーカー・ミズノの関連会社だ。
2022年12月に閣議決定された「防衛力整備計画」では、無人機の利活用について、従来の標的・偵察・掃海から踏み込む姿勢を見せている。具体的には攻撃能力を持つ無人機の導入であり、対戦車ヘリコプターや哨戒機の機能を代替するものが挙げられている。
さらに英国・イタリアと共同開発を行っている次期戦闘機(有人戦闘機)に併せて、これに追随する無人機システムの国際開発についても明記されている。米国、英国やオーストラリアなどで開発されている、有人戦闘機と編隊を組む無人列機(ロイヤル・ウイングマン)に近いものだ。
防衛装備庁は2016年8月、「将来無人装備に関する研究開発ビジョン」を公表した(表1)。現状では第1・2分類は運用段階に入っており、第3〜5分類は研究段階にある。先に挙げた国際共同開発が予定されている無人列機は、第4分類に該当する。同庁は、今後は第3・4分類の研究開発に重点を置くとしている。
【表1】防衛装備庁による軍用無人機の分類
第1分類 | 携帯可能、目視距離での運用(いわゆるドローン) |
第2分類 | 近距離見通し内での運用 |
第3分類 | 遠距離見通し外での運用、衛星通信を介した遠隔操縦 |
第4分類 | 遠隔操縦や有人機との連携で戦闘行動を行う |
第5分類 | 長期間滞空型の大型飛行船・ソーラープレーン |
中国無人機の能力は米国に匹敵
各国が無人機に注力する中でも、高いシェアと技術力を有するのが中国だ。民生用無人機では世界市場ランキングの上位に中国企業が入っている(表2)。これからも分かるように、世界の民生用無人機の4割は中国製だ。DJI製の無人機は、ウクライナの戦場ではウクライナ・ロシアの双方が軍用として使っている。
【表2】民生用無人機(ドローン)の世界シェア(2022年8月)
DJI | 中国 | 36.2% |
パロット | フランス | 24.1% |
スカイディオ | 米国 | 20.4% |
3Dロボティクス | 米国 | 10.7% |
ケスプライ | 米国 | 3.7% |
ユニーク | 中国 | 3.6% |
デルエアー | フランス | 1.0% |
オーテル | 米国 | 0.3% |
ハードだけではない。無人機同時飛行数のギネス世界記録は5293機で、今年5月に韓国企業が達成したものだが、この1つ前の世界記録は2021年5月に中国企業・高巨創新による5184機だ。中国の民間企業は、これだけの無人機運用力を有している。ちなみに2021年7月23日の東京オリンピック開会式で、夜空に立体電光画像を描いた無人機(米インテル製)の数は1824機だった。中国の軍用無人機の開発・運用は、こうしたハード・ソフト両面での民間部門の技術が基盤となっている。
中国の軍用無人機は、衛星通信を経由する遠隔操縦対応のもの、小型艦艇に搭載する監視・捜索救助用のヘリコプター型、自爆攻撃型、無人列機型など、研究開発中のものも含めて西側先進国と同様に一通りのものを揃えている。
米国の無人機には、アフガニスタンで対タリバン攻撃に用いられたMQ-1プレデターやMQ-9リーパー、イラク戦争や東日本大震災時の原発事故現場上空で情報収集にも投入されたRQ-4グローバルホークなどがあるが、中国の無人機は同種の米国製のものとほぼ同じ機能を有するとみられる(日本では海上自衛隊と海上保安庁がMQ-9を、航空自衛隊がRQ-4を運用している)。
また中国では、2013年11月に無人列機型のGJ-11「利剣」が公表され(写真)、2022年に量産に入っている。GJ-11はステルス無人機で、精密爆撃を行うこともできる。GJ-11と同種の無人機を開発した実績のある国は、米(X-45:初飛行2002年)、仏(nEUROn:同2012年)、英(タラニス:同2013年)、豪(MQ-28:同2021年)に限られ、いずれも開発案件で運用の段階にはない。中国の無人機開発に対する意気込みと技術力が感じられる。
中国は、台湾や日本周辺での無人機の運用を活発化させている。2024年に入ってから、大型無人機に限っても3月にWZ-7が日本海で、5月には東シナ海の日本の防空識別圏でWL-10が確認された。さらに8月に中国製とみられる無人機が与那国島と台湾の間を抜けて太平洋まで往復飛行を行っている。いずれも航空自衛隊の戦闘機が緊急発進して対応した。
台湾への飽和攻撃の可能性も
軍用無人機には、手のひらサイズから、翼幅40メートルで人工衛星を介して操縦するものまである。また安価で簡易な無人機もウクライナの戦場で健闘している。オーストラリア軍が開発してウクライナに提供している無人機コルボPPDSは、段ボール製のためレーダーに映りにくい利点を持つ。
こうしたことから、今後は軍において無人機は2分化され、ハイローミックス(高価格高機能と低価格低機能の併用)の運用になると思われる(表3)。そのうち低価格の無人機は多数による同時攻撃(飽和攻撃・スウォーム攻撃)に適している。当然のことながら、中国軍もそれを視野に入れた無人機の開発に力を入れている。
【表3】無人機の2分化
ロー(低価格・機能限定) | (1)単独/ゲリラ的運用 | 偵察、爆発物投下、自爆攻撃 |
(2)集中運用 | スウォーム攻撃 | |
ハイ(有人機を補完・代替) | (3)単独運用 | 偵察、対地・対艦攻撃 |
(4)有人機との編隊 | 空中戦、対地・対艦攻撃 | |
(5)無人機のみの編隊 | 〃 |
2021年10月に中国の珠海で開催された航空ショーで、無人機GJ-11の運用を想定したコンピューター・グラフィックス映像が公開された。映像では、強襲揚陸艦(075型)を発艦したGJ-11の2機編隊が、途中で無人のデコイ(おとりの飛行体)6機を前方に射出する。合計8機となった編隊で、先行するデコイが欺瞞(ぎまん)信号を出して敵の対空火器を引き付け、その間にGJ-11が敵艦に接近し攻撃する。表3の(5)に該当する無人機運用だ。
075型の強襲揚陸艦は現在3隻が就役、1隻が建造中で、最終的には8隻体制になるとみられている。この他にも中国海軍はドック型大型揚陸艦を8隻保有しており、これも無人機の海上発進拠点となり得る。
中国は台湾統一を目指しているが、仮に有事に至れば、これら艦艇が台湾島を取り囲んで飽和攻撃を仕掛けることも考えられる。先のギネス世界記録に鑑みると、数千・数万機の無人機が強襲揚陸艦から自律飛行で飽和攻撃・スウォーム攻撃を仕掛けてくる可能性は否定できない。その場合、対空火器・ミサイルを使った従来型の対応では限界がある。守る側には「点」としてではなく、「面」としての対応が必須となり、日本でもその研究は進んでいる(表4)。
【表4】無人機の対処手段・対処方法
対処手段 | 対処方法 |
網による捕獲 | 回転翼・推進部に網を絡ませて墜落させる |
物理的な攻撃 | 防空システム(機銃・ミサイル)による撃墜 |
電波妨害 | 電波妨害で無人機制御の通信を遮断する |
サイバー攻撃 | 無人機や制御システムへのサイバー攻撃 |
高出力レーザー | レーザーエネルギーによる破壊 |
高出力マイクロ波 | 無人機内部の電子基板を損傷させる |
無人機は、戦況を大きく変える「ゲームチェンジャー」と呼ばれるが、攻める側・守る側双方にとって、チェンジにとどまらず、レボリューション(革命)の段階に入った感がある。
写真:ロイター/アフロ
地経学の視点
戦場で使われる無人機には、米MQ-9のように翼長20メートルに及ぶ大型機から、数十センチ四方程度の民生機に弾頭を付けた自爆型ドローンまでさまざまだ。後者の小型無人機の部品コストは最安で数万円と言われており、ウクライナ戦争ではそうした小型無人機が数億円相当の戦車などを破壊するなど、戦果を上げている。
台湾有事においては、中国軍による認知戦から海上封鎖、台湾上陸侵攻に至るまで烈度に応じたさまざまなシナリオが想定されるが、筆者が指摘するように「ギネス級」の無人機群制御技術で台湾島に飽和攻撃を仕掛ける可能性は否めない。
台湾側も妨害用電波による防衛システムの配備を進め、無人機攻撃に備え始めている。また、米インド太平洋軍のパパロ司令官は今年6月、米紙ワシントン・ポストとのインタビューで、台湾有事を巡り米軍が数千のドローンや無人艦を配備し、「無人の地獄絵図」を作り出す戦略を明らかにしている。
少子高齢化や自衛隊の採用難で人的資源に乏しい日本にとっても、無人機活用は喫緊の課題だ。現代の戦場は宇宙やサイバーといった領域にも広がっているが、既存の陸海空でも無人機というゲームチェンジャーが新たな機会と脅威となっていることを再認識する必要がある。(編集部)