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2018.12.06 特別寄稿

さわかみHD代表 澤上氏の情報収集法とは
さわかみホールディングス代表 澤上篤人氏インタビューvol.2

澤上 篤人

◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 2018年冬号 −10年後の日本未来予想図』(10月5日発売)の特集「さわかみホールディングス代表取締役 澤上篤人氏インタビュー」の一部である。全5回に分けて配信する。



ある程度の短期スパンで結果を求めがちな我々の投資。しかし10年後、20年後それ以上を視野に入れた長期投資の世界もある。その長期投資とはどういうものなのか、また長期投資家に必要な考え方、情報収集方法などはあるのか。「さわかみファンド」でその名を轟かせる日本における長期投資家のパイオニア、澤上篤人氏に長期投資の魅力、そしてその真髄・極意を尋ねた。


―長期投資家は、市場の大局である「大河の滔々(とうとう)たる流れ」をつかむことが重要と仰っていましたが、その流れをつかむために、どんな情報収集をしているのでしょうか。

私はあえて社会動向に敏感にならないようにしています。もちろん、新聞やニュースには目を通しますが、影響されないようにしています。

「大河の滔々たる流れ」をつかむヒントは、人々の日常生活にあることが多い。だから、私は人間観察をします。たとえば、飲み屋に行って、スマホを使っている若者を観察する。みんなとつながったと喜んでいる彼らが「10年後も喜んでいるか」「何をそんなに喜んでいるのか」を考えたりしながら、「世の中がどのように変わっていくのか」にイマジネーションを働かせてみるのです。

私は「推と論」とよく言っていますが、長期スパンで世の中の動きを考えるときに、推(イマジネーション)を働かせると同時に、統計データなどを駆使してしっかり論拠を押さえることが大事です。新聞やニュースなどがすべてと思わないことです。


―「大河の滔々の流れ」として今後、注目すべき観点はほかにもありますか。

ここ20〜30年は、お金は金融に流れていましたが、金融バブルがはじけたことで、お金の流れが大きく変わってくるでしょう。

史上空前の金融緩和やゼロ金利政策の副作用の懸念が高まり、米欧では金融や金利を正常な状態に戻そうとする政策に転換する機運が高まっています。トランプ政権のバラ撒き予算で財政赤字は急悪化しているので、国債を増発すれば長期金利の上昇圧力になります。こうした懸念から、2018年5月に米10年国債の利回りが2014年1月以来4年ぶりとなる3%台を記録しました。これは際限なく肥大化をする財政にブレーキをかけ、金融や経済活動の健全なる発展を守るマーケットの機能といえます。

アメリカ国内の経済環境を見ても、失業率は低下して賃金の上昇圧力が強くなっており、物価の上昇要因になりつつあります。さきほど言ったように(インタビューvol.1で言及)人口増加はインフレ要因ですから、いずれ金利は上がってきます。こうした経済全体の動きをつかんでおくことです。

一方、日本では国債を増発して、日本銀行がその国債を大量購入し続けています。アメリカのようなマーケットの機能が働いていません。

しかし、このような不健全な状態がずっと続くわけがありません。その蓄積したエネルギーが爆発する可能性が高まっています。もし爆発すれば、日本の金融のみならず経済活動に大きなショックをもたらします。しかし、そうした事態は、金融や経済の正常化に向けて避けて通れない道です。

今後、デフレ経済からインフレ経済になっていく過程で、賃金上昇と物価上昇は避けて通れません。その点は「大河の滔々たる流れ」として押さえておくべきでしょう。


(つづく~「さわかみホールディングス代表 澤上篤人氏インタビューvol.3 金利上昇は長期投資家の買い場?【フィスコ 株・企業報】」~)

澤上 篤人

さわかみ投信 会長
1947年3月28日生まれ。愛知県出身。71年から74年までスイス・キャピタル・インターナショナルにてアナリスト兼ファンドアドバイザー、80年から96年までピクテ・ジャパン代表を務める。96年にさわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立し、99年には「さわかみファンド」を設定。日本における長期運用のパイオニアとして名を馳せる。現在もさわかみ投信会長として長期投資の啓蒙活動を行いながら「カッコ好いお金の使い方」のモデルとなるべく財団活動にも積極的に取り組んでいる。ブログ「澤上篤人の長期投資家日記」も日々更新中。

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