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2022.08.01 経済金融

強まる米国のハイテク制裁、米中覇権争いは長期化の様相

実業之日本フォーラム編集部

 トランプ前大統領は2018年3月、米通商法301条(不公正貿易慣行に対する報復)に基づく制裁を発動し幅広い中国製品に巨額の制裁関税を課した。これをきっかけに激化した米中貿易摩擦は、未だ収束する気配がない。そんななか中国当局は、2018年に華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)が米国から詐欺罪などで起訴・拘束されてから昨年9月に解放されるまでの間に、約600社を超える中国企業を外資ブラックリストに掲載した。

 ブラックリスト規定の正式名称は「不可靠実体清単規定」で、直訳すると「信頼できない実体(外国企業・組織・個人)のリスト」。この規定は、中国企業に対して差別的行為を行う信頼できない外国企業を掲載し規制を課すもので、これにより中国・香港両市場で制裁企業への証券投資が禁止されるほか、対中融資、関連要員の入国なども広く禁止、制限される。

 しかし、その後米国はAIなどの高度技術を扱う中国のハイテク企業への制裁をさらに強め、昨年末には中国の人工知能(AI)大手「商湯科技(センスタイム)」を2度目の制裁リストに追加。さらにその一週間後には、ドローン世界最大手のDJI(大疆)、AI画像認識で強い曠視科技(メグビー)・依図科技(イートゥ)・雲従信息科技(クラウドウォーク)、スーパーコンピューター大手の曙光信息産業、ビデオ監視システムの東方網力科技(ネット・ポサ)、データセンターやクラウドサービスを手がける立昴技術(レオン・テクノロジー)、サイバーセキュリティサービスの美亜柏科信息(メイヤ・ピコ)の計8社が、米国人による投資を禁じる「中国軍産複合体企業」リストに加えられた。

米国の制裁対象となっている一部のハイテク企業

企業名主力業務AI活用分野一部株主・投資家
旷視科技(MEGVII)世界最大級の顔認証プラットフォーム、顔認証のFace++モノIoT,都市IoT、サプライチェーンIoTAnt Financial, Foxconn,Lenovo Capital,CCB International
商湯科技(SenseTime)スマートシティ、スマートカー、スマートヘルス、スマートビジネスSenseAuto Cabin・Pilot、SenseFoundry方舟2.0、SenseCare、SenseRover Mini/Proなどアリババ、ソフトバンク, 米投資ファンドのタイガー・グローバルやシルバー・レイク  
依図網絡(YITU)顔認識、画像認識、音声認識技術を活用したセキュリティ製品スマートセキュリティ、YITU Medical、スマートシティ、スマートハードウェアなどICBCインター、ハイタイドキャピタルGなど  
雲従科技(CloudWalk)HITL(Human-in-the-Loop、人間参加型)のオペレーションシステムやAIのソリューションを提供スマートファイナンス、スマートガバナンス、スマートトラベル(Polaris構造光カメラ、Ruyi支払いパッドなど)
曙光信息(sugon)スーパーコンピュータ大手企業OS層、インフラ層、ソリューション層、ソフトウェアアプリケーション層、サービス層の5層をカバーしている中国政府系研究機関-中国科学院系
大疆(DJI))世界シェアの70%を占める民生用ドローンメーカー大手Phantom/Mavic/SparkなどのドローンやRonin/Osmoなどジンバル製品など創業者汪滔、セコイア・キャピタル
立昂技術(LiAng)通信ネットワークへの設計・施工、システムインテグレーションなどを行う総合ICTサービス企業です。ISO9001 品質マネジメントシステム
東方網力(NetPosa)映像監視システムプラットフォームPVGネットワークビデオマネジメントプラットフォーム及びNVRシステム
美亜柏科信息(MeiyaPico)電子データフォレンジック製品、ネットワーク情報セキュリティソリューション,サイバースペース,ガバナンス対策ビッグデータ・インテリジェント製品、サイバースペースセキュリティ製品、国投集団

危機感抱くアメリカ

 中国への先端技術移転を巡っては、米国防総省のイノベーション実験グループディレクターのマイケル・ブラウン氏が2019年10月29日、「中国は極超音速技術や顔認識などのハイテク分野において米国をリードしている。さらに量子科学やAI、5G、遺伝子工学、宇宙分野でも先行している」と指摘し、中国への警戒感をあらわにしている。

 中国企業によるアメリカのハイテク産業への投資の増大に危機感を抱くアメリカは、中国主導で行われようとしているハイテク産業の流れを止めて、アメリカ優位の状況を維持したいと考えている。これが、米国が前述のようなハイテク技術を持つ企業に集中して規制をかけている理由だ。

研究開発費、米国に追いつく勢い

 では、そもそも両国は自国のハイテク産業の成長のためにどのようにお金をかけているのだろうか。それを考える上で知っておきたいのが、両国の研究開発費についてだ。

 中国はこの10年間で研究開発強度(売上高に占める研究開発費の比率)や国内研究開発費、人的投資、科学的成果などを中心としたハイテク分野への科学技術投資を大幅に増加させてきた。2000年の両国の研究開発費の対GDP比率は、米国が2.63%だったのに対し中国はわずか0.89%だったが、2021年には米国は2.84%で中国は2.44%と、ほとんど差は無くなり格差は劇的に縮小している。また、研発開発費の支出額は、2000年の1兆300億元(約26.5兆円)から今年は2兆7900億元(約57兆円)まで増えており、アメリカに次いで2位になっている。

 中国のハイテク分野での人材育成の増加も目立つ。2021年の研究開発者総数は世界でもトップレベルの562万人と見込まれており、これは2012年の1.7倍。就業者1万人当たりの研究開発者数は2012年の42.6人から75.3人に増加する見込みだ。

 これらのことからも、中国が米国を追い越す勢いで国内のハイテク産業に注力しているのがわかる。これが、米国が中国のハイテク産業に圧力をかけている背景の一つだ。

対中ハイテク制裁は長期化する

 中国は資金や規制面から企業を支援しながら、国家戦略として実用化に向けたAI 研究を進めてきた。これからも製造、農業、物流、金融、医療、商業の6つの主要産業を重点分野としてAI導入を積極的に支援する模様だ。さらに民間のAI中核技術を軍事や国防に転用しようとする動きも見られる。

 しかし、米国による制裁は、AI以外にも高速通信規格「5G」や量子情報科学、半導体、バイオテクノロジー、再生可能なグリーンエネルギーなど中国の科学技術産業の多くに影響を及ぼしている。米国は勢いを増す中国に危機感を強めており、中国の革新的技術への脅威に対抗したい考えだ。今後も革新的技術をめぐる覇権競いが激化するだろう。

写真:ロイター/アフロ

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実業之日本フォーラムは地政学、安全保障、戦略策定を主たるテーマとして2022年5月に本格オープンしたメディアサイトです。実業之日本社が運営し、編集顧問を船橋洋一、編集長を池田信太朗が務めます。