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2021.05.21 外交・安全保障

韓国空母はどこに向かうか(1)

末次 富美雄

2021年2月、韓国防衛産業推進員会は、2033年までに、2兆300億ウォン(約1930億円)を費やして、3万トン級空母を建造する計画を明らかにした。半年前の2020年8月に韓国国防省が明らかにした「21~25国防中期計画」では、3万トン級空母の他、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の建造まで記載されているが、3万トン級空母のみが具体的な計画に移されることとなったようである。2021年3月26日に行われた「第6回西海守護の日」の記念式典に参加した文在寅大統領は記念スピーチにおいて、「2033年頃に姿を見せる3万トン級空母は、世界最高水準の韓国の造船技術により建造される」と空母建造に期待を寄せている。

4月21日、海軍は国防部記者団に対し軽空母導入に関する説明会を開き、これまでの検討状況に関する説明を行った。その中で、海軍が説明した空母の任務は、北朝鮮の挑発を抑制し、戦時には早期の戦争の勝利を導き、平時には海洋主権を守り国家の利益を擁護するというものであった。3月27日付The Diplomat誌は「Why South Korea’s Aircraft Carrier Make Sense」という記事を掲載している。(筆者は韓国海軍大学の教授である現役海軍少佐である。)筆者は、「空母を高価な玩具であり、あまりにも脆弱であるという批判はあたらない」と主張している。その趣旨は、北朝鮮は攻撃の初頭で韓国空軍の飛行場を使用不能にするであろうことから、洋上を移動できる空母は反撃能力として有効であること、米韓連合軍の一員として行動することから、米軍から手厚い保護を受けることが期待できるというものである。さらに、現在韓国海軍はシーレーン防御に有効な手段を持たないが、空母機動部隊により重要な交易路を確保できる、そして多国籍部隊と協力することにより韓国の海洋権益を標的とする行動を阻止することができるとしている。これら一連の動きを見る限り、韓国は、官産学をあげて空母建造を進めていると言えよう。

軍事力の整備は、その国の主権に属するものであり、他国がとやかく言うべき問題ではない。しかしながら、日本にとって韓国の軍事力は我が国の安全保障に大きな影響を与える。端的に言えば、北朝鮮への抑止力低下は我が国への脅威の増大に直結する。従って、我が国として、韓国の空母建造が軍事的にどのような意味を持ち、それが我が国にどのような影響を与えるかという問題から目をそらすわけにはいかない。軍事的合理性及び社会的経済的合理性の観点からそれぞれ評価する。

空母は現時点では海軍力の象徴である。原子力空母11隻を保有する米海軍の存在は抜きんでている。中国も「遼寧」及び「山東」の2隻を保有し、3隻目が建造中である。イギリス、フランスもそれぞれ空母を運用中である。イギリス及びフランスが本国を遠く離れたインド太平洋方面に空母部隊を展開することは、同方面における両国の関心の高さと権益保護への決意を国際的に示すものである。日本も「いずも」及び「かが」の空母化の方針を示している。太平洋に広大な排他的経済水域(EEZ)を保有しているにもかかわらず、戦闘機が使用可能な滑走路が硫黄島にしかない日本の現状を考えると、広範な海域をカバーできる「動く滑走路」である空母を保有する利点は大きい。

それでは、韓国にこのように空母を必要とする海洋権益があるであろうか。韓国の領土領海を含む排他的経済水域は約30万平方キロメートルと日本の約485万7千平方キロメートルの16分の1に過ぎない。しかもその場所は日本海と東シナ海という複数国の権益が入り混じる海域である。空水潜の手厚い護衛が無ければ空母を展開させる海域としては適当とは思えない。しかもそれぞれの海域は、韓国本土から航空機が派遣可能な距離にある。さらには、空母1隻を常時展開するとすれば、訓練や修理というサイクルを考慮すると、少なくとも3隻体制の構築が必要である。北朝鮮からの第一撃を回避するといった目的で1隻整備しても、期待される効果を上げることはできない。さらに、シーレーンの護衛と言っても、どこで何からの脅威を想定しているか明らかではない。QUADに対する消極的姿勢から見て、東シナ海や南シナ海において、米国等との共同作戦を行うことを政治的に許容するとは思えない。韓国が空母を保有する軍事的合理性は必ずしも高いとは言えないだろう。

次に社会的経済的合理性も必ずしも十分とは言えなさそうだ。第一に指摘できるのは兵員の確保の問題である。2021年4月に国連人口基金が公表した「世界人口白書」によれば、韓国の一人の女性が一生のうちに生むと予想される子供の数を意味する「合計特殊出生率」は、調査対象の198カ国中最下位の1.1人であった。これは少子高齢化に悩む日本(1.4人)よりも低い。徴兵制とはいえ、この数は韓国軍に大きな影響を与える。2018年7月に韓国国防部が大統領に報告した「国防改革2.0」において、2022年までに61.8万人の現有常備兵力を50万人まで削減するという方針は、この少子化を見据えたものであろう。同報告は、AIや自律型兵器の開発を積極的に行うことで、この削減を達成するとしている。海上自衛隊HPによれば、基準排水量19,950トンの護衛艦「いずも」の乗員数は約470人である。2倍近い大きさを持つ韓国空母には、乗員として少なくとも600人程度が必要であり、これに搭載機の乗員や整備員等を加えると1,000人近くになる可能性がある。韓国海軍の人数は海兵隊を含め約6万8,000人と見られている。空母運用に必要な軍人を確保するとすれば、他からの転用が無ければ、定員を増やさざるを得ない。これは、常備兵力の削減という方針に逆行する。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄

防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。

写真:YONHAP NEWS/アフロ写真

末次 富美雄

実業之日本フォーラム 編集委員
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後、情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社にて技術アドバイザーとして勤務。2021年からサンタフェ総研上級研究員。2022年から現職。

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