実業之日本フォーラム 実業之日本フォーラム
2021.02.25 経済金融

日本のサービス収支(2)

中村 孝也

日本のサービス収支(1)」では、日本のサービス収支について、黒字項目を中心に紹介した。一方、赤字項目は、輸送収支、委託加工サービス収支、維持修理サービス収支、保険・年金サービス収支、通信・コンピュータ・情報サービス収支、その他業務サービス収支である。

輸送収支の内訳は海上輸送収支と航空輸送収支である。海上輸送収支の内訳は、旅客、貨物、その他海上である。その他海上収支は、荷役、保管・倉庫、曳舟、代理店手数料などを示す。赤字額の大きさは港湾インフラの脆弱性に加え、輸出先国での支払いが大きいことが要因である。航空輸送収支の内訳では、旅客は、日本人の航空サービス利用でナショナルフラッグ以外のキャリアを利用するケースが多いため赤字基調にある。その他サービス収支のうち、委託加工サービス収支は、企業が他の企業に加工、組み立て等を委託した場合の手数料を計上したものであり、衣類の縫製、電子機器の組み立ての手数料などである。維持修理サービス収支は、各種の修理、保守点検、アフターサービスなどを計上したものである。船舶、航空機の修理、保守点検のための支払いが多い。

保険・年金サービス収支は、様々な形態の保険、年金提供サービスを計上したものである。日本の保険会社による海外事業拡大にともない、近年の受取額は増加傾向にあるが、それでも受取額は、支払額を示す海外保険会社による日本事業での営業収益の3 割程度の水準にとどまる。通信・コンピュータ・情報サービス収支はIT関連サービスの取引である。内訳の通信サービス収支は電話、インターネット等の利用代金、コンピュータサービス収支はコンピュータでの情報処理、ソフトウェアの委託開発のサービス取引、情報サービス収支は報道機関のニュース配信などである。赤字の大半はコンピュータサービス収支によるものである。

その他業務サービス収支は、様々な事業者向けサービス取引である。内訳は、研究開発サービス収支、専門・経営コンサルティングサービス収支、技術・貿易関連・その他業務サービス収支である。研究開発サービス収支は、大半が産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)の売買の計上によるものである。財産権購入の拡大で赤字額は拡大基調にあり、産業財産権の費用の支払い額は受取額の3倍にのぼる。専門、経営コンサルティングサービス収支は、法務、会計・経営コンサルティング、広告サービスである。アメリカ、イギリス、フランス等では、グローバル規模で事業活動を展開する民間シンクタンク、ロー・ファーム、会計監査会社、コンサルティング会社、広告代理店が数多く存在することが影響している。技術・貿易関連・その他業務サービス収支は、建築、工学等の技術サービス、農業、鉱業サービス、貿易関連サービス、その他の専門業務サービスの取引である。

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

著者の記事