国益を追求する際に、それを具現化するための資源であり、具体的な実行手段となるのが、政治力、経済力、軍事力、国家としての影響力を総合した国の力、すなわち国力である。国力には、「望ましい結果を得るために他者に影響を与える能力」という側面があるが、そのうちハード・パワーとは他者に直接影響力を行使するものである。政治力、軍事力、経済力などを主体として、これまでの国際政治において国家間関係を規律する主要な手段として用いられてきた。ハード・パワーは大きく変動する国際社会においても、依然としてその重要性を保ち続けている。
一方、国力には、他者に対して直接行使されるものだけではなく、間接的に行使される影響力もある。このソフト・パワーの源泉となる国富には、「文化」、「政治的な価値観」、「外交政策」といったものが含まれる。ソフト・パワーは、間接的に行使されることもあり、国富を国力として手段化するプロセスが特に重要であり、その適否によって国益に及ぼす影響は大きく変わり得る。様々なソフト・パワーが存在するが、今回はその中でアートに着目してみよう。
アート・バーゼルとUBSが2019年3月に発表した「The Art Market 2019」によると、世界の美術品市場は2014年に過去最高の682億ドルに達した後、2年連続で減少し、2016年には569億ドルとなった。その後、2年連続で拡大し、2018年には674億ドル(7.58兆円)となった。国別にみると、アメリカ(44%)、イギリス(21%)、中国(19%)、フランス(16%)などの構成比が大きい。世界の美術品市場(7.58兆円)を2018年の国内における美術品市場(2,125億円)と比較すると、日本の構成比は2.8%と求められる。世界のアート市場における日本の存在感は非常に限られるようだ。
(株式会社フィスコ 中村孝也)