1月5日から、5年ぶりに北朝鮮労働党大会が開催されている。米朝交渉の頓挫に伴う厳しい経済制裁、度重なる自然災害、そして(北朝鮮当局は否定しているが)新型コロナウイルスの感染拡大という厳しい状況下にある北朝鮮のかじ取りを行う朝鮮労働党が、どのような方針を示すかが注目されている。
朝鮮中央通信が配信する記事に、金正恩委員長が9時間にわたって行った、過去5年間の活動状況の報告の概要が記載されている。その中では「経済活動をはじめとする各分野の活動で、深刻な欠陥が現れ、予見された戦略目標に到達できなかった」ことを率直に認めた上で、政治思想はより強固となったと自賛している。
その中で注目されるのは、米国を敵対勢力と位置付けて「核戦力の建設を中断することなく強行推進する」としている点と、弾道ミサイルを始めとした各種兵器を具体的に述べている点である。これらの兵器について、特に韓国発メディアは針小棒大に伝える傾向がある。それぞれの兵器について評価すると次のとおりである。
核兵器については、小型軽量化、規格化、戦術兵器化し、超大型水爆の開発が完成したとのことである。防衛省は、核保有国が最初の核実験から小型までの期間が2~6年であることから、2006年に最初の核実験を行った北朝鮮が既に核兵器の小型化・弾頭化を実現している可能性が高いと見ている。中長距離弾道ミサイルの弾頭容量は1トンを超えることから核搭載可能とみられるが、スカッドERのような戦術ミサイルの容量は300kg程度とみられており、戦術兵器に搭載できるほど小型化ができたのかについては疑問が残る。
長距離弾道ミサイルに関しては、2017年11月に実施した「火星15号」は射程10,000km以上とみられており、北朝鮮はこの発射成功をもって「国家核戦力完成」としている。事実、これ以降は長距離弾道ミサイルの試射が行われていない。北朝鮮が行った各種弾道ミサイルの発射実験を見る限り、弾頭の再突入に係る評価が行われている様子はない。大気圏への再突入時に、弾頭は温度を含め、極めて高いストレスに耐えなければならない。米中ロが弾道ミサイルの試験を行う際には、弾着地域に各種計測装置を設置する。北朝鮮の弾道ミサイルの発射試験は海上に弾着しており、弾頭の状況を評価する方法が見当たらない。加えて、精密兵器である弾道ミサイルは、定期的に発射試験を行う必要がある。米中ロの核保有国は定期的に戦略核兵器の発射試験を行っている。従って、北朝鮮の中長距離弾道ミサイルの信頼性は低いと見るべきであろう。
北朝鮮は、2019年5月以降、水中からの発射1回を含め、合計17回の射程400~600kmの短距離弾道ミサイルの発射試験を行っている。金正恩は、超大型多連装ロケット砲、新型戦術ロケット、中長距離巡航ミサイル等の先端核戦術兵器を開発したと述べている。発射状況を見る限り、これらのミサイルは固体燃料を使用していると推定できる。防衛省は、これらのミサイルは「飽和攻撃のために必要な正確性・連続射撃能力・運用能力が向上した」と評価しており、特にロシア製イスカンデルに酷似した新型短距離弾道ミサイルは低高度を変則的な軌道を描くことができるとし、ミサイル防衛網を突破することを企図していると評価している。これら一連の短距離弾道ミサイルは、その射程から主として韓国が目標とみられるが、朝鮮半島の軍事力バランスに大きな影響を与える。
サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。