2020年7月より政府の観光支援事業「Go Toトラベル」が実施されたが、11月頃からの新型コロナウイルス感染の急増に伴い、「このGo To事業が新型コロナウイルス感染拡大の原因であるのでは」という議論が度々なされるようになった。経済産業研究所におけるプロジェクト「新型コロナウイルスの登場後の医療のあり方を探求するための基礎的研究」のうち、『2020年8月か9月に旅行に行った者は新型コロナウイルス感染と診断されやすかったか?』という調査結果が公表されている。
2020年10月27日~11月6日に行われたアンケート調査結果を用い、旅行の有無と新型コロナウイルス感染の診断との相関について検証している。8~9月の1泊以上の旅行と新型コロナウイルス感染の診断との間には有意な相関があった。さらに、過去1ヵ月における新型コロナウイルス感染に関係する7症状(発熱、咳、のどの痛み、だるさ、息苦しさ、味覚・嗅覚の障害、下痢)の経験についても、咳以外の症状につき、旅行の有無と正の相関があったという。12月にMiyawakiらが、Go Toトラベルの利用と発熱などの症状の関連を調査した研究でも、5症状(高熱、のどの痛み、咳、頭痛、においと味覚の障害)のいずれについてもGo Toトラベルを利用した人々の発症割合が高かったと報告されている。厳密な因果関係を示すものではないが、Go Toトラベルの利用が新型コロナウイルスの感染リスクを高める可能性が示唆されている。
この結果は旅行と新型コロナウイルス感染の因果関係を示すものではなく、本研究結果には種々の交絡因子が存在し得る点に留意しなければならない。しかしながら、10月末頃に新型コロナウイルスの治療を受けている人々に感染者を限定した感度分析において、旅行に行った人々が行かなかった人々よりも新型コロナウイルスと診断される場合が多かったことが示されており、旅行が新型コロナウイルスの診断に概ね先行したものと考えられる。
(株式会社フィスコ 中村孝也)