以下、「AEGIS Ashoreの代替は?、INFの東アジア配備は?、国家安全保障戦略の見直しが急務(元統合幕僚長の岩崎氏) (1)」の続きとなる。
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我が国を取り囲む環境は激変しており、この様な認識の下、我が国は戦略見直しを行うべきである。単なるイージス・アショアの代替や敵基地攻撃能力に絞った短絡的な思考では、先行きを誤ってしまう。
この様な環境下で、我が国が生き延びる為にはどのような戦略を保有すべきであろうか。私は、一国の安全保障を考える上で最も大切な事を「自分の国は自分で守る」という気概にあると考えている。この気概が無い国を、どこかの他国が守ってくれるだろうか。「否」である。先ずはこの「気概」を持つことである。しかし、現下の戦略・軍事環境下では、一国で自国を完璧に守る事は至難の業である。このため、多くの国では価値観を共有できる国同士で同盟関係を締結している。また、必ずしも同盟でなくても同盟関係に近い関係構築に努力を重ね、自国の平和と安全、そして繁栄を確保しているのである。
今回のNSSの見直しに当たっては、これらの考え方をより明確にすべきと考える。
今回の「戦略」見直しに当たって最も強調すべき事は、先ずは我が国自身の防衛能力強化である。特に「抑止力」と「対処力」の強化である。
「抑止力」とは、「相手の能力を妨げる能力であり、相手が我に手出しした時に手痛いダメージを負わせることが出来る能力」である。この相手の能力を妨げる能力とは、直接的な破壊や妨害等が考えられる。我が国は既に島嶼奪回の為に必要として、F-35戦闘機用の長距離ミサイル(JSM)の導入を決定している。これ以上の射程を持つミサイルの導入も検討すべきである。また、相手方の行動や活動を妨げる能力、即ち各海峡等の封鎖能力の保有も極めて重要である。そして新領域の「宇宙、サイバー、電磁波」の更なる能力向上で相手方の動向を常時監視しつつ、指揮・作戦運用系統を妨害して混乱させる能力保有も必要である。
対処力とは、一端事が起こった時に対応する能力である。我が国の尖閣列島の様な島嶼への侵攻、弾道弾攻撃、海上連絡路への攻撃等々に対し、ある程度独自で対応が可能な能力を持つべきである。最近の中国、ロシア、北朝鮮の弾道弾は以前に比べ格段に進化して複雑な飛翔が可能となっており、対応が困難となりつつある。我が国において、これまで弾道弾対応が可能な手段は、イージス護衛艦とPAC-3のみであった。より強力なBMD体制の構築の為、更なるイージス護衛艦の増強(4隻⇒6隻⇒8隻)、イージス・アショアの導入、そしてPAC-3の能力向上(MSE)を決定していたものの、ブースターの問題でイージス・アショアは導入中止とされた。しかし、我が国への弾道弾の脅威は依然として増大しており、イージス護衛艦の増強とPAC-3のMSE化のみでは対策として十分と言えない。より強靭なBMD体制が必要である。その為にはイージス・アショアシステムの配置場所等の再検討のみならずTHAADの導入も必要と考える。これにより、護衛艦と地上のイージスシステム、THAADシステム及びPAC-3の組み合わせとなり、ベストなBMD体制が構築できるものと考える。
次に、日米同盟の更なる強化である。日米同盟は片務条約と言われてきた経緯があるものの、私は、これを必ずしも適切な評価と考えていない。全く同じ任務を担う同盟関係もあるが、同じ任務や行動でなくても相手国が同等の価値を同盟国に見いだすことが出来れば、同等の同盟関係となる。私は、我が国を米国にとって、同盟国としてかなり有益な国であると考えている。米国は未だに最強の軍隊を持っているものの、中国が徐々に台頭してきており、相対的な米国の強さには若干の陰りが見え始めている。如何に米国であっても安穏としてはおられない。同盟国との更なる連携強化が必要となって来ている。東アジアでは特にその必要性が増しており、私は東アジアで米国が最も頼りにしている国を我が国であると確信している。
我々は常に同盟関係の更なる信頼性向上に加え、相互補完能力を向上させる努力を継続する必要がある。この観点から、現在進行中のF-2の後継機の開発は絶好の機会である。我が国は、既にこの次期戦闘機を「我が国主導で開発する」事を決定しているものの、米国の参入は可能である。是非、米国の協力を得ながら、相互運用性を有する次世代戦闘機を開発していくことが日米の信頼性向上に資すると考える。
そして、米国は、開発中の中距離弾道弾を東アジアに配備したいと考えている。先ずは配備に関しての真剣な検討と議論が必要であるが、私は、核抜きが条件であれば、配備最適地を我が国であると考えている。もしこの新型弾道弾を我が国に配備する事になれば、我が国の安全保障がより盤石となるとともに、我が国と米国の信頼性はより強固になっていくものと考える。
そして、更に日米のみでなく、価値観を共にするオーストラリアや英国等との関係強化も極めて重要である。また、シーレーンを考慮すれば東南アジアの国々との関係強化が必須であり、インドとの関係強化も大切である。但し、インドは中立外交を展開しており、特定国と親密な関係を作らず、等距離外交を展開している事をよく理解しつつ、インドが中露に傾かないように注意深く関係強化に努めるべきである。
今回のいろいろな環境変化(イージス・アショア、新型コロナウイルス、米国の各種戦略、INF等々)は、我が国に戦略見直しの機会を与えてくれた。外部環境から考えると許されている時間は短いと想定されるものの、これを機に本来あるべき姿を確りと議論および検討し、米国との協議等を通じて最適な国家戦略を策定し、引き続き我が国が安定して繁栄できるよう切に願って止まない。(令和2.8.25)
岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。